Shan't

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誰にでも優しすぎる…から、モテるのか。 声をかけられて無視をしないのは優しいからなのか。 だから嫉妬をしてしまうのか。 晃佑の特別が欲しい。 私だけにくれる何かが欲しい。 彼女でもない今、それでも晃佑は私に特別をくれていると思う。 一緒に暮らしている特別。 晃佑のありのままの姿をいつも見ている特別。 久しぶりにたくさん食べたら、私は吐いた。 食べたら吐くようになって、晃佑は私に液体の食事とスポーツドリンクを買ってきてくれる。 嫌な特別ももらっていると思う。 「精神的なものだろ?気分転換に次の休みにでも遊びにいくか?」 「点滴打ってもらいに病院いくから、この食事はいいってば。気をつかいすぎっ」 私は顔の腫れもひいて、晃佑を正面から見て言ってやる。 「人の親切を気遣い無用と遠ざけんな」 「そんなに気を遣われたら、もっと吐くよ?」 「どんな脅しだよ…。じゃあ、俺のじい様が補修した神社に回復祈願参りにでもいくか。俺もその建物見たいし」 「晃佑と神社ってなんか似合わないけど。晃佑んちの家業が大工さん?」 「一言余計だ。…じい様は宮大工。じい様は人間国宝」 人間国宝に知り合いがいるらしい。 まったくもって晃佑のことがよくわからない。 でも…建築が好きなのはよくわかる。 「家業継がないの?別のところで働いているんでしょ?」 「父親は大工やっていないし家業とは言わないかも。じい様のところには弟子がたくさんいる。…憧れはするけどな。じい様の技術、貰えるものなら貰いたいけど、あの世界は厳しいし。会社に雇われて働いているほうが給与も貰える。 チカは?大学出たらなんの仕事するつもり?」 晃佑は聞きながら、いつものことのように食事の支度を始める。 私も食べることはできないけど、晃佑と一緒に食事の支度。 作ってあげると喜んでくれる。 でも一緒に食事の支度をしたいから、作りおいてはあげない。 そんな同棲。 「……医者」 私は自分の通っている大学を思い出して、それしか道がないなと思う。 私の通っている大学は医大だ。 「…初めて聞いた。え?医大?」 「医大」 「ちゃんと通えよっ。もったいない」 行かなきゃなぁとは思う。 引きこもっているのは、体の不調は確かにあるけど、ただの晃佑への甘えだ。
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