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俺は美優が泣き止むまでそこにいた。
喜んでもらうことや笑わせることがうれしいのに、俺は女を泣かせるのが得意らしい。
耳に残る千香の大好きといった声。
俺にキスをした唇。
俺を抱きしめた腕。
そういうものを思い出すときほど、頭を抱えて喚いてしまいたい嫌な気持ちになる。
俺はいつか千香を殺してしまいそうだ。
「…待っていたんだよ、ずっと。高校の頃。燃え尽きて嫌になって楽しい恋愛したいって思って。端から見ればずっと一人を好きでいるって一途だとか、いいように見られるみたいだけど。…楽しくない。苦しい、淋しい、そんなのばっか。
振り向かないその背中を振り返らせて、気まぐれにつきあってくれるとそれだけで喜んでいい気になって。俺のものにした気持ちに俺がなっても、会うことなかったら俺の声に応えようともしない。どれだけ愛しても俺は止まり木にもならない。すぐに俺から離れて別の男のそばにいる」
俺は独り言のように俯いて言葉を溢す。
愚痴かもしれない。
千香と俺の関係を美優に聞かせているのかもしれない。
俺は美優に甘えているのかもしれない。
…自分のことなんてわからない。
嫌なのに…、こうなるのをわかってるのに、千香に期待して待ってしまう馬鹿な自分に泣きたくなる。
俺は本当にまた目の端に涙を滲ませてしまう。
「楽しい恋愛って遊び?軽い気持ちって遊び?俺、楽しくない独りよがりな恋愛しているより、そういうほうがいいんだけど。女を追い回すよりかわいがっているほうがいいんだけど。それって遊びにしかならないのかな」
俺はひたすら独り言のように言葉を溢す。
美優は何も言わずにそんな俺をじっと見ていた。
じーっと見られて、泣きそうにもなったし、なんか恥ずかしくて。
ちらっと美優を見て、こっちを見ている視線を見ると目を逸らす。
もう一回ちらっと見て、まだ見ているその視線に俺の視線の行き場がない。
「……嫌になったらやめてもいいんじゃない?また追いかけたくなったら追いかけてもいいんじゃない?」
美優はそんな言葉を俺にくれる。
「…上手く口説けなくなるばかりなんだけど」
「上手く口説けないなら口説かなくてよくない?隆太はそのままでいいんじゃない?」
美優が言ってくれると特別に聞こえる。
それでも遊びしかここにないんだろうか。
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