Back and forth

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今度こそ、大切にするから。 すぐにいなくなったりなんかしないから。 泣かないで。 なんて思うくせに。 千香の寝顔の写メを消せない。 美優が消せと言ってくれたら消す。 甘えかもしれない。 それでも俺は美優を求めて、偶然を求めて、美優の家の近くで車を停める。 ストーカーだ。 自分がされたらいやだろと思って、ちゃんと帰るのに、またきてる。 今、目の前に美優と千香がいたら、なにを迷うこともなく、俺は美優を選ぶ。 俺の心、奪われちゃった。 なんて、言ってやりたい。 ふれたい。 抱きしめたい。 一晩中、抱きしめていたい。 絶対に2度と手離したりしない。 それでも。 千香と過ごした時間を浮かべて、ぎゅっと胸が苦しくなって。 いくつかの泣いた記憶を浮かべて。 溜め息がこぼれる。 待っていればいいと美優の声が聞こえる。 待ちたくないと、待つなら美優がいいと反発する俺がいる。 釈迦の手のひらの上で暴れる猿かもしれない。 ひょっこり出てきては消える千香をたちきらないと俺の未来はなんにもない。 大学には留年しない程度に通いながら、バイトと夜遊びの大学生。 バイトは忙しいときは忙しく、暇なときは暇だ。 客がいなくても店のキューのタップやグリップのチェックをしたり、球を磨いたり、キッチンまわりの掃除をしたり、することがないこともない。 朝まで店は開いている。 店長でオーナーもいなくて、閉店作業を一人で済ませて、軽くあくびをしながら家に帰る。 飲まされることもあるから、だいたいバイトには徒歩で通っている。 始発が動き出しそうな駅の前を通りすぎようとしていると声をかけられた。 「隆太」 その女の声に眠かった目も少し冴えて、慌てて振り返る。 美優かと思った。 でも、そこにいたのは朝帰りのミクで。 俺はがっくりして、とぼとぼと家に向かう。 ミクは俺のあとを追って走ってきて、俺の隣に並んで不思議そうに俺の顔を下から覗きこんでくる。 「リュウちゃん、どしたの?おはよ?」 「おはよ。…なんでもない。寝ぼけてたのかも。おまえはなにしてるんだ?コウの家に泊まった帰り?」 にしては早すぎる時間のような気がする。 「カラオケオールの帰り。送って?リュウちゃん」 「今日はだめ。おとなしく電車で帰れ」 「なんでー?」 「眠いから」
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