584人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が千香から聞きたかった言葉は、俺とつきあうだった。
「不満がないのに別れる理由なんてないだろ?楽しくつきあえているんだし」
俺はそう答えをおいてやった。
ミクの目には涙が滲んできた。
どこまで本気かわからないから、どう接していいのか迷う。
さすがに三兎もいらない。
一番目は行方不明で、二番目は音信不通だけど。
彼女はしばらくいらない。
俺だってなくしたものに真剣だった。
他の彼女よりも。
美優がぼろぼろ泣いた姿が今も胸に痛い。
ミクに押されまくっているこの状況はそういうこともあったなという笑い話になってくれればいい。
「私が問題なんだもんっ。コウちゃんといると楽しいけど、リュウちゃんのこと気になっちゃう。コウちゃんといても、リュウちゃんのこと目で探しちゃう。こんなの初めてで、自分でもわかんないけど。リュウちゃんのこと、好きなの。リュウちゃんが欲しいっ」
ミクの瞳からは涙がこぼれて、その言葉はまっすぐに俺に向かってくる。
千香に吠えてる自分を重ねてつらくなる。
しばらくなにも言えなかった。
ミクはこぼれた涙を拭って、鼻をすすって泣いていた。
俺はミクになにかをしたつもりはない。
その気持ちを向けられても今は受け止められないとしか言いようがない。
千香もこんな気持ちだったのかと思うと、よけいにつらくなる。
泣き止ませようとその顔にふれたりもせず、ただ立ち去らないことしかできなかった。
別れるなんて言わなければよかった。
千香が俺に惚れてくれるなんてないのだから。
同じ女に何回フラれれば気がすむ?
ほら、俺の中はまだこの二人の女しかいない。
ミクに告白されたって受け止められる度量はない。
もう少し前なら、いくらでも受け止めていたのに。
ミクは泣き止んで、俺の体に倒れこむように抱きついてきた。
軽くその背中に手をあてて支える。
さすがにそろそろ駅を利用する人が増えてきた。
朝から道の真ん中でいちゃつくのは見られて恥ずかしい。
「優しいのに優しくない。……でも大好きだよ、リュウちゃん」
俺の胸に顔を埋めてミクはまだ懲りずに言ってくれる。
「1年後くらいならなびくかもよ?」
耳元に唇を近づけて言ってやると、ミクは顔をあげて期待したように見る。
待て。それはおまえのほうがもつわけない。
自分のこと、本当にわかってない。
最初のコメントを投稿しよう!