Shan't

13/13
前へ
/606ページ
次へ
頼れば頼られてくれて。 私の言った小さくて大きな我が儘もきいてくれている。 もう…彼女じゃないのに。 ここにいて、誰かに誘われても一緒にいてくれる。 晃佑の優しさに私はきっと癒されている。 手にしたミルクティーの缶の上にぽたりと雫が落ちた。 晃佑の指先が私の目元を拭ってくれる。 大好き。 思うほどに泣けてくる。 「チカ、俺の連れに混じるの嫌だろ?だから遊びに行かない。 ……チカのほうが正しかったのかもな。トモと仲良くなっていたらクスリ勧められていたかもしれないし。チカなら、そういうことあっても逆に注意してくれそうな気がしていたけど。俺がトモに甘すぎた」 「……ねぇ、晃佑。私の名前…チカじゃないよ」 「って、えっ?ちょっ、えっ?」 晃佑は思いきり戸惑ってくれる。 半年以上その名前だと思わせておいて、私はいきなり言い過ぎたのかもしれない。 でも…、私の名前、ちゃんと呼ばれたい。 「……もしかしてトモカって読む?」 私は頷いた。 「……最初に言えよっ!ずっとチカチカって、俺、馬鹿みたいじゃねぇかっ!」 当たり前のように怒られた。 やっぱりチカって呼ばれておこうか。 「チカでもいいよ?」 「嘘つき女っ。トモカはトモカだろっ!あーっ、くそっ。ずっと騙されていた…」 怒ってる…。 言うタイミング、思いきりまちがえた気がする。 優しくしてくれるからいいかなって…甘かった。 「ごめん…」 謝ると晃佑は私を睨むように見てくれる。 私はニット帽を深く被るように頭に手を当てて小さくなる。 「知花。…他に騙してることあるか?」 ないないっ。 私は頭を横にぶんぶん振った。 「……はぁ…。なんで俺、こんなに騙されやすいんだろ…。知花の嘘は見抜けていたはずなのに」 晃佑は溜め息をついて言ってくれる。 けど。トモカ。 その名前で呼んでくれていて、なんとなくうれしくなる。 「…チカでもいいよ?」 もう一回言ってみると、晃佑は膨れっ面で私を見て、私を小突くように私の頭にふれて。 その手はそのまま私の頭を包む。 「もう呼ばない。知花のボケ。ナス。カス」 拗ねたようなその晃佑の悪口は久しぶりに聞く。 私は笑って。 晃佑の肩に軽く頭をぶつけた。 ごめん。大好き。 あなたがいるから、私は今、生きていることを喜べて。 あなたがいるから、笑顔になれる。 笑って泣いて生きている。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加