Signal

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私の恋愛なんて晃佑との時間だけ。 誰かを好きになる気持ちも、晃佑にしか抱いたこともない。 私は晃佑の体に寄りかかるようにして泣いた。 私は好きだけど、晃佑の気持ちがそこまでじゃないってわかるときが一番つらいかもしれない。 誰でもいいって思わされるときが一番つらいかもしれない。 私に優しくしてみせてくれるけど、他の誰かにも優しくしてみせているのだろう。 そう思うときが一番寂しくなる。 私じゃないほうが、きっと晃佑にはいいんだと思うと、ここにいたいと晃佑のそばにいたい気持ちを封じなければいけないって思う。 私と晃佑は違うから。 同じじゃないから。 「……ごめん。知花、帰ろう?」 晃佑は私を慰めるように私の頭を撫でてくれる。 私は…好き。 大好き。 だけど私には、晃佑に私だけでいいと言わせるものが足りないのだろう。 それは…晃佑の友達に混じれないことだったり、晃佑が喜ぶ嫉妬を強くみせてあげられないことだったり。 私が…傷を持ってしまったことだったり。 私は晃佑にしがみつくように抱きついた。 ここにいたい。 強く思うけど。 「……晃佑はその元カノを忘れられていなかったでしょ?一緒に暮らさないほうがいいと思う。……前にも言ったと思うけど、晃佑が本当に好きになれる人とつきあってほしい」 私は私の中の感情すべて殺して言った。 わかってる。 晃佑がそういう言葉を言われたくないのは。 強引なくらいに自分を押しつけてほしいのは。 我が儘でいいから、受け止めるからっていってくれる人なのは。 わかってる。 愛されたい。 そう望むけど。 私だけを見て。 そう望むけど。 私にはそれを言えるものはなにもない。 「……俺は…おまえといたいって言ってる」 私の耳元、傷ついたような晃佑の声が聞こえる。 私は更に強く晃佑の体に抱きつく。 「荷物、取りにいかなきゃ。晃佑の家、行こうか?」 「会話になってないっ」 「……いっぱい甘えさせてくれてありがとう」 「知花…。ちょっと待てって。だから…、そうやってすぐ…」 私は服の袖で顔を濡らす涙を拭き取って、鼻をすすって。 晃佑から少し離れてその顔を見た。 寂しそうにしてくれている。 必要としてくれているみたいでうれしい。 私は私から晃佑の唇に軽くキスをした。 「いこ?」 今の精一杯で笑ってみせた。
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