Signal

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晃佑に手をひかれて晃佑の家に向かう道はお通夜のようで。 晃佑の家で私の荷物を鞄に詰めながら、また私はひたすら晃佑を恋しく思って一人で泣くのかと思っていた。 ここにいても…、きっと私は晃佑と元カノのことを気にしてしまう。 それできっと喧嘩になって嫌な気持ちになる。 どっちのほうがいいのかわからない。 最初から私と晃佑は合わないと言えば合わないし。 すれ違う気持ちは多い。 「……知花、ここに…いて?」 甘えた晃佑の声が背後から聞こえて、私はまた泣きそうになる。 本当、ずるい人。 モテるフラれ虫。 「私も何か置き土産していく?そうしたら晃佑に忘れられることないかも。何人もの元カノの中で、これをおいていった元カノって覚えていてもらえそう」 私は晃佑からもらったニット帽を脱いで、これをおいていってしまおうかと思う。 「なんで戻ろうって話をしたのに、こうなってんだよ?」 「ねぇ?迷ってるのは晃佑でしょ?迷うくらいならやめておけばいいって思わない?無理につきあう必要はないって思わない?………あ。そう思ったから、彼女じゃなくてもいいって言った?」 晃佑を振り返ると、晃佑の寂しそうな目が見えて。 振っているのは今度こそ私なのだろうと思わされる。 「思った。迷ってる。けど…、おまえを手離したいって思ってるわけじゃない。おまえがここにいるなら、ミクと戻るつもりはない」 「…私、きっと彼女としては失格だよ?そのミクさんは晃佑のまわりの人に嫉妬をたくさんしてくれるんでしょ?私とは違って、晃佑に好きってたくさん言ってくれるんでしょ?……だから、私にそれを求めたんでしょ?」 晃佑は何も答えなかった。 そのとおりだったのかもしれない。 胸の奥がひどく痛い。 否定してくれればいいのに。 そんなことないって言ってくれればいいのに。 私は元カノのかわりだった? 荷物をまとめきって、私は何も言わずに鞄を手に玄関を出ようとして。 晃佑は私の腕を掴んだ。 「もう甘えないから。一緒にいよう?」 そんな晃佑の言葉に私は晃佑を振り返る。 晃佑の顔を見上げて、その頬にあいている手を押し当てた。 泣きそうな顔をしてみせるなんて最高にずるい。
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