582人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
私は彼の家の玄関先に座り込んで、泣きたくなる体の痛みを堪える。
あれはただの強姦だ。
早くここから出て忘れてしまいたい。
私は彼と友達でもない。
昨日、約2年ぶりに会った、言葉をかわしたこともない人。
「……とりあえず部屋の中戻ろう。…というか、俺、中で出してないよな?」
彼は私の腕を掴んで、部屋のほうへと引っ張りながら、それがこわいとでも言いたげに言ってくれる。
私は昨夜の私の体を押さえつけて虐める彼のその姿を、その顔を思い出す。
…早くここから出ないと。
何もなかった。
昨日は何もなかった。
私は私の腕を掴む彼の手にふれて、私から離れさせる。
「避妊していたので大丈夫です」
私は答えて立ち上がり、そこにあった玄関の扉を開ける。
彼は私の後ろから腕をのばして、その扉を閉めた。
「逃げるなよっ。まだ聞きたいことあるんだって」
「私は何もしていませんっ」
私は尋問される容疑者のように答えた。
というか服を着てほしい。
ぱんつ1枚でうろつかないでほしい。
なんて思っていたら、私は昨夜のように片腕で彼に抱き寄せられた。
「誰も責めてもいないっ。…俺が責められるんじゃないのか?記憶ないし。なんかSMっぽいことしたみたいだし」
恨むほど覚えていたくもないから、さっさと帰ってしまいたい。
私は彼の腕から逃れようと、彼の腕を離れさせようとした。
行動パターンは酔っていても、酔っていなくても同じなのかもしれない。
まだ酔っているのかもしれない。
私は…ふれられたくない。
「帰ります」
「…いや。…会話になってないし。杉浦サンの携帯番号教えて?メアドと。俺のも教えておくから」
この人はいったいなんなんだろう。
なぜ私はここにいるのだろう?
「…髪、いい匂い。綺麗な髪」
彼は私の体を抱き寄せたまま、酔っているときと同じように私の頭に顔を擦りつけてきた。
…髪を切ってしまおうか。
「なんか言えよ。……なぁ?つきあおっか?」
彼はものすごく軽く言った。
体を重ねた記憶もないくせに。
意味不明。
そしてそんな言葉を私は誰にも言われたことがない。
最初のコメントを投稿しよう!