Signal

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千香は困ると言いながらもつきあってくれて。 とはいっても、そう盛り上がるものもない。 千香が声をかけるのは私か晃佑で。 加藤くんが声をかけるのも私か晃佑。 お互いに無視をしている。 私はお手洗いにいって、戻る途中で加藤くんに会った。 「チカちゃんって呼ぶのもなんだかで杉浦サンと呼んでしまっているのですが」 「トモカで」 「本名で呼ぶ?そういえばなんで友達の名前があだ名だったの?」 加藤くんは知っていたようだ。 晃佑がそう思っていたとは知られていなくて、私は思わず笑った。 「千香のこと好きだから」 なんて答えてみた。 「まぁ、かわいくなったよな、千香。メイクなんてして、服もお姉さんで。…煙草教えたの俺っぽいな。煙草吸うときの俺の癖写ってるし」 加藤くんは小さく笑って、少しだけ懐かしそうな目を見せた。 「つきあっていたこと、私、本当に知らなかったんだけど」 私だけ知らなかったみたいだけど。 「あー、つきあったのも1ヶ月だけ。そんなはしゃぐようなつきあいでもなかったし、学校で話してもいなかったし。放課後、公園とかで話していただけ。つきあったといえるのかも危ういし、知らなくて当然」 「ひどい別れ方したの?」 「…別に?言い出したのは千香で、俺はそれを受け入れただけだし。 それよりトモちゃん、携帯番号とメアド教えて?友達紹介のはずなのに、晃佑の監視厳しくて聞く暇ない」 加藤くんは携帯を取り出して。 「狙わないでください」 「かたっ。友達くらいいいだろ?もっと柔和にいきませう。晃佑の情報教えてやるよ?」 それは……欲しいかもしれない。 私はその餌に釣られるように番号とメアドを交換する。 「で、晃佑のことでなに聞きたいの?」 餌に釣られたことをわかっているようだ。 「ミク」 「深紅と書いてミク。だから深い赤のピアス。トモちゃんとつきあう1週間くらい前に別れた彼女。焼きもち焼きで泣き虫で晃佑にべったりしていたかな。1つ年下」 加藤くんはその名前だけで詳しく話してくれる。 予想できていた…かもしれない。 どんな人なのか。 「加藤くんが奪ったんでしょ?」 「奪ってないっ。話は聞いてやってたよ。というか、俺はあいつの邪魔をしてるわけじゃない。フラれ虫が哀れにも思って、その彼女の背中を押しているだけ」 意外にもいい人だったようだ。 狙っているような姿勢を見せるから悪いと思う。
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