Signal

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「加藤くんが彼女の背中を押していてもフラれてきたんでしょ?」 「ちょっと話してみて、この子ならいいかと思える子の背中しか押してないけどな。中には股がけしまくり、貢がせまくりなんていうのもいたから。そんな女でも、あいつに告げる最後の言葉は同じなんだけど。 いい友達でいましょう。 これ、あいつには禁句な」 「もう言った」 「やっぱり最初のはトモちゃんが振ったのか」 「振ってないっ。……戻るときに言ったら……泣いた」 加藤くんに言ってしまっていいのか悩みながら言うと、加藤くんは苦笑いで。 「あいつはあいつなりに真剣なんだって。それでも繰り返してきたフラれ虫の傷ってものがあるから、どこかで本気になるのをやめてるところがあるんじゃないかな」 加藤くんの言うことが、すっと私の中に入ってくるのはなぜだろう? 誰かの言葉をそのまま真に受けるのは好きじゃないのだけど。 違うと反論したくなるものがない。 そうなんだろうなと思ってしまう。 「ミクの背中もそうやってまだ押してるの?」 「なに?コウ、ミクに言われたこと話したのか?」 って、加藤くんは知ってる。 私の味方とは言い難い。 結局は晃佑が長く幸せな恋愛ができれば、晃佑の相手は誰でもいいのだろう。 奪い合わせることだってしそうだ。 「ミクに戻りたいって言われたって迷っていた。 …ねぇ、加藤くん。ミクのほうが晃佑に似合っているんじゃないかな?私が…一緒に住んでるのは、晃佑にとってよくないって思わない?求めて…くれるけど。必要としてくれるけど。私じゃないほうがいいような気がしてる」 そこまで自分の気持ちを吐き出してしまうと、さすがに泣きそうになった。 だって私は好きだから。 「……そんなふうにひいていたら、俺のこと好きじゃないんだろって思われるぞ?」 「最初の別れた理由はそれだよ。……ミクの背中を押していて。私から晃佑を奪わせて」 加藤くんにそうお願いをすると、加藤くんの手が私の頬にふれた。 瞬きをすると目に溜まった雫が垂れた。 「なんで破局を望むの?自分の本当の希望と違うから泣くんだろ?嫌なんだろ?なんで逃げる?」 「……自分の気持ちが重くていや」 「……他の女をあいつが匂わせるから…。 とにかく泣き止んで。泣き止まないと…俺にキスされるよ?」 加藤くんは私に顔を近づけてきて。 私は加藤くんの唇に手のひらを押し当てた。 軽い。
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