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頬を摘まむのをやめて、その髪を撫でてあげると、晃佑は目を閉じて、私に身を任せる。
「ごっこ遊びの理想そのままをやってくれるのがミクだった。好きだという感情をぶつけて、嫉妬しまくりで。……でも、そんな姿をしてみせていたくせに、簡単に隆太に乗り換えた。俺には友達でいてね、相談にのってね。
なのに、久しぶりに会ったと思ったら、やりなおそう。隆太にフラれたらしい。俺は都合のいい恋愛ごっこのお遊び相手。
……元カノとは言うけど、全部、ただの友達」
ただの…友達。
けど、でも…。
その中には本気で恋愛しようとして、晃佑がそういう気持ちじゃないことに気がついた私みたいな人もいるかもしれない。
…どうして私は加藤くんの言葉には同意をするのに、晃佑にはこんなふうに思ってしまうのだろう。
価値観や考え方が違うのはわかる。
わかるけど…、そんなふうに言わないでって言いたくなる。
それを聞いてる私のほうがつらくなる。
晃佑は右耳のピアスをはずすと、以前に私にぶつけたように、どこへともなく投げ捨てた。
「なぁ、知花。おまえがどうしてもただの友達がいいなら、俺もそれでいいから。ただの友達のほうが、こうして甘えられるなら、そのほうがいい。おまえに惚れてもらえる俺なんて幻想だ。俺なんてこの程度の男だよ。フラれる理由なんてありすぎる」
晃佑は目を閉じたままそこまで言って、あとは何も言わなくなった。
私は晃佑の手にふれる。
晃佑の指先を撫でるようにふれると、晃佑は私の手を指を絡めて握ってくれた。
晃佑は泣いていないのに私が泣きそうだ。
言わせたのは私だろう。
こんな話を聞くつもりじゃなかったのに。
晃佑は本音ですべてぶちまけてくれたように思う。
幻想だとまた私の気持ちを遠くに押しやられてしまったように思う。
私が…聞いてはいけないことを聞いたからなのだろうけど。
晃佑の大きな手をぎゅっと握ったまま、がんばってがんばって涙を必死に堪えたけど、また私は泣いていた。
泣いてばかり。
私、本当に泣き虫だ。
顔を上に向けて、晃佑の上に雫をこぼさないようにがんばってみた。
私はまだまだ晃佑を知らない。
どんな人で、どんなふうに考えて、どんなふうに何を思う人なのか。
私は晃佑を傷つけすぎだ。
……笑って。
あなたの笑顔が一番好き。
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