Some time

13/13
前へ
/606ページ
次へ
痛い。痛い。痛い。 どうしてこんなに痛いの? 体を傷つけられたわけでもないし、内臓も悪くないはずだ。 でも痛い。 胸の真ん中。 苦しいよ。 息ができないくらい。 愛して。 私だけ。 言葉はいらない。 心が欲しい。 欲張りだね。 ここにいてくれるじゃない。 私だけの彼氏でいてくれている。 どうしてそれで満足できないの? 独占欲の塊だよね。 思い通りにいかないことに泣いている我が儘。 痛い。苦しい。 助けて。 しょうがないじゃない。 彼の心は一つしかない。 一途だよね。 頭を抱えていた。 いろんな私の声が聞こえる。 耳を塞いでも聞こえる。 指先に晃佑が買ってくれたピアスがふれる。 「あれ?知花、ピアスどうした?」 晃佑は私の隣で食事の支度をしながら聞いた。 「キャッチとれて、なくなっちゃった」 「……高かったのに。かわいかったのに」 「ごめん。……もうピアスつけるのやめとく」 「まだ穴、ちゃんと通ってないからつけないと。アクアマリンの石とかどう?誕生石だろ?なんか見繕って買ってくる」 晃佑は私の耳をくすぐるようにふれて、私は少しくすぐったくて笑う。 一緒に食事の支度。 包丁を使うのは私の役目になっているかもしれない。 私はぼんやりして。 指先をざっくりやってしまった。 切った指を心臓より上にあげて止血。 「って、おいっ。なに冷静にっ。早く手を洗って手当しないとっ」 「すぐ止まるよ、これくらい。……血こわい?死体こわい?内臓こわい?」 聞いてみると晃佑は真っ青になって、私は笑う。 「知花が将来医者になるって、人間の内臓刻むんだろうなとは思ってるけど」 「刻まない。切って針と糸でお腹縫い合わせたり…」 「…飯の前にその話やめよう?肉食えなくなりそう。…俺が怪我したら治療してくれる?」 「診察料いただきます」 「ケチ」 私は晃佑の言葉に笑って。 晃佑も笑って私に肩をぶつけてくる。 嘘、ついちゃった。 ピアス…、アクセサリーケースの中に入れたの。 ミクのピアスが入っていたケースに入れたの。 深紅のピアスの隣に。 晃佑の好きな青のピアス。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加