Story

9/12
582人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
すぐに彼から電話がまたかかってくる。 私はひどく溜め息をつきたい気持ちで通話ボタンを押した。 『チカ、電話きれた。…きった?』 ちょっと怒ってる。 「もう寝ます。おやす…」 『一緒に寝ようか?家きて』 『コウ、口説くこと楽しんでる?』 『ちょっ、うるさいってっ。また電話切られちまうだろっ』 『切られちゃえば?家いってあげるよ、あたし。女ばかり集めていってあげようか?』 私は携帯をその場において、明日の予定を手帳で確認して目覚ましを合わせる。 寝る準備。 飲み物を淹れていると私の携帯がまた鳴った。 …これは彼の遊びなのだろうと思うと、もう出たくなかった。 私は彼と同じノリにはなれないし。 彼のノリに合わせるのも難しい。 彼はモテるから。 私が相手をする必要もない。 私の相手をしてくれるのも彼じゃなくていい。 …だって、妙な嫉妬…していたくもないし。 電話は何度もかかってくる。 携帯の充電を切らす勢いにも見える。 私はホットミルクに口をつけながら、着信音を鳴らす携帯を見ていた。 携帯を手にして保留にした。 またかかってくる。 また保留にした。 何度か繰り返すと、私の携帯の電池残量が減った。 あまりに無視をするのも心苦しい。 私はもうこれに懲りて電話をしないでと言うために電話に出る。 『チカっ。おまえ、最悪っ』 トモカです。 「もう…」 電話をしないでと言葉を続けるつもりだった。 『…おまえに会いたい』 そんな言葉を言われて、私の胸はどきっとした。 彼はずるいと思う。 女の子を喜ばせることに慣れきっているのだろう。 気持ちなんて軽いもののくせに、さらりとそういうこと誰にでも言うのだろう。 私は…言われたことなんてないっ。 ずるい…。 嫌い。 私は遊ばれたくない。 彼の玩具になりたくなんかない。 『おまえの顔忘れそう。会いたい。…会おう?なぁ?』 「また酔ってるんでしょ?」 『…ちょっとしか飲んでないっ』 「……酔い潰れたら会ってもいい」 朝には彼の記憶はないから。 私はどんな醜態でも彼に晒せる。 『今会いたい』 彼の声は私の中に滑り込んできて。 私をどきどきさせる。 嫌い。 ずるい。 大嫌い。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!