Sweet lies

2/13
前へ
/606ページ
次へ
授業が終わって、私は白衣を着たまま手を洗う。 ぼんやりと皮膚に押し当てたメスと、軽く動かしただけで切り裂かれる皮膚を頭の中に描いていた。 私を切り裂いてみたい。 「杉浦さん」 声をかけられて振り返ると、同じ学部の男の子がいた。 話したことはない。 「白衣、濡れてるよ」 言われて自分の白衣をびしょびしょにしていた間抜けさを見る。 ぼんやりしすぎ。 白衣を脱いで、水を止めて。 息を一つ吐くと、さて帰るかと歩き出そうとして。 「この後、用事ある?なかったらご飯でも一緒に食べにいかない?」 この学校、男のほうが人数多いというのに誘われたのは初めてだ。 私は本当に男を寄せ付けないオーラを出しているのかもしれない。 そういうつもりはないのだけど。 「彼氏います」 「っ、やっぱり…?いるだろうなと思っていたけど…。何か悩み事でもあるんじゃない?よければ相談にのるよ?」 なんだろう? 素直に受け取れないこの感覚。 狙われている。 なんとなくそう思う。 「遠慮します」 「遠慮しなくていいから。話してみると楽になるかもしれないよ?」 「結構です」 さくさくっと拒否しすぎたのかもしれない。 彼は笑顔だった頬をひきつらせる。 「見た目ギャルのくせにカタイね」 「塩でもかけて揉めば柔らかくなるかもしれませんね。ではお先に」 私は足早にそこから去るように歩く。 晃佑のまわりで見ていた子に比べれば、私なんておとなしいものだと思う。 髪も黒くしたし、ピアスもつけていない。 服は晃佑の好みのままなだけ。 構内で靴をローヒールからハイヒールに履き替えて、私は駅に向かう。 いつもの私の学校が終わったあとの行動。 今日はバイトがある。 バイトがなければ彼の誘いにのっていたとは言わない。 晃佑以外の人に興味なんてない。 話を聞いてもらおうと思うこともない。 バイトをして、さて帰ろうとしていたときに私の携帯が鳴った。 着信名を見ると加藤くん。 もしかして私の唯一の男友達と言えるかもしれない。 「はい」 私は電話に出ながら、家に向かって歩く。 『聞きたいことがあるんだけど』 「どうぞ」 『……喧嘩、またしてる?』 「加藤くんには関係ない」 『確かに関係ない。けど、この酔っ払い引き取りにきて』 晃佑は私のバイト中、加藤くんと遊んでいたようだ。 しかも酔っているらしい。 最近よく飲んでいる気がする。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加