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「……言わない方がいい」
そう言って、イチは立ち上がる。
背中を向けた彼に、あたしは声を投げた。
「なんでっ……!」
「それは、恋じゃないから」
後ろ姿じゃ、表情まではわからない。
けどその声は、ひどく平淡に響いた。
「錯覚の一種だよ」
「さっ、かく……?」
「そう。僕がそう仕向けたんだ。ヒカリさんを失った君の新たな拠り所になるために」
まぼろし? 思い込み? 勘違い?
あたしのこの気持ちは、間違いだって、言うの……?
呆然としたままのあたしを見向きもせずに、イチは続ける。
「だから勘違いしてもおかしくない。でも、もう忘れた方がいい。君はもう、新しい人生を歩むことができるんだから」
……忘れ、る?
イチを、イチと過ごした時間を、あの日々を、この気持ちを、すべて……忘れろって、いうの……?
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