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「……や、だ……」
心の中に、ぽつんと浮かんだ言葉が、口からこぼれ落ちた。
窓に向かっているイチの姿は、ほとんど影になっていた。
重なるのはあの幻のような時間の中で、光に包まれて、消えていく……ヒカリの姿。
「……いやだよ、イチ……っ!」
遠い。届かない。
このままじゃ、また、失ってしまう。
突き動かされるように、あたしは立ち上がっていた。
勢いのまま、影に手を伸ばす。
「……っ、あたしはっ、忘れるなんて、できないっ……!」
ぎゅうっと握ったそれには、感触があった。
しっかりした布の手ざわり。
確かに掴んでいる、イチの、白衣。
もう絶対に離したくない、大切なひとの、とっかかり。
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