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「……結局何もなかったか」
大樹の家を出た隼人は溜め息を吐きながら歩いていた。
「……しかし今日はまだ時間があるな……」
彼が時計を確認するとまだ18時を回ったところだった。
「久々にあそこでも通って帰るか」
彼がそう呟くと進行方向いきなり変えて、いつもとは違う道を歩き始める。
少し遠回りになるが、気分を変えようとした彼は昔探索したルートを通ることにしたのだ。
当時、そのルートの途中に木々が生い茂る薄暗い山があったのだが、あまりに薄気味悪いので夜になるとわら人形を打つ音が聞こえるだの、首のない妖怪が首を貰いに来るなどの根拠の無い様々な噂が広がっていたので一度隼人も探索に来たのだった。しかしそんなもの一切無くこの時も隼人は落ち込んで家に帰った経験があった。
そして彼は今ちょうど、その薄暗い山の中を通っているのであった。
「懐かしいな……この道を通るのも何年ぶりだろうか………ぉっと!……」
一瞬バランスを崩し、倒れそうになる隼人だったが、手から袋を離しそうになるが何とか持ちこたえる。
「……相変わらずここは足場が悪いな……俺の飯が潰れなくてよかった……」
弁当が無事なのを確認すると、彼はホッとしたのかそのまま足を早めて歩こうとした。
「ん? ……なんだあれは?」
しかし、ふと目に止まるものを発見した彼は足を止める。
「……こんな建物……昔あったか?」
彼が今見ているものは、四角い箱のような建物であった。
木々が生い茂る中、周りに何も無いところに一つだけ存在していることが建物をよりいっそう目立たせていた。
「また今度にしよう……」
彼はかなり気になったが、暗くなり始めていたため、家に帰ることだけに集中し、さらに足を早めた。
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