ただの客ですから

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「谷川くん、どうよ。そろそろ連絡先、聞きや」  古田のいつもの大声に、谷川は少し黙ったあと答えた。 「いや、そんなんじゃないですよ。なんて言うか、ただの客ですから」  古田は不意に振り返り、谷川の後ろに回り込んだ。谷川を羽交い締めしにする。 「なんやねん、なんやねん。好きなんやろ。お前なんでクールやねん。今から店に戻って好きですって言うて来いよ」  古田は酔っているため、めちゃくちゃな力で羽交い締めする。谷川はなんとか振りほどき、叫んだ。 「だから、ただの客って言ってるでしょ、酔っ払い!!」  古田は谷川が興奮したところを初めて見ておどろいた。 「谷川くん、ごめんよ。俺、酔ってるわ」  谷川は古田をお越しながらつぶやいた。 「ま、実際に好きなんですけどね」 「やっぱり好きなんや、ハルちゃんが昼に仕事してる病院にも行こか」 「あはは、それは迷惑でしょ。明日の漁も朝早いから帰りましょ」  二人は帰った。
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