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出会いは突然だった。
しかし、小説のような運命的な出会いではなかった。
「痛っ」
杉浦 亮平は思わず声を出した。
大学の合格発表へと向かう途中に大柄な男と肩がぶつかった。
「す、すみません。大丈夫ですか」
大柄な男はおどおどと謝りながら亮平に尋ねる。
「あ、大丈夫です」
亮平はそう言いながら、その男の顔を見た。
まんまるな。本当にまんまるな顔に眼鏡がちょこんと申し訳なさそうに乗っている。
春はまだ早いと言うのに、汗を拭いながら、謝ってくるその姿に、亮平は思わず吹き出しそうになった。
滑稽とはまた違う可愛らしさが、その男にはあった。
「すみませんでした。それじゃあ…」
彼も合格発表を見に来たんだろう。まんまるな顔の下のまんまるな背中を見送って、亮平は合格発表の会場へと向かった。
クシャ。
……クシャ?
亮平は、紙を踏んだ感触に思わず、足を退けて下をのぞきこんだ。
……ああ。もうっ!何なんだよコレ!
亮平の足元には先程の男のまんまるな顔が写った受験票が落ちていた。
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