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午前6時10分
朝日に照らされながら、動きやすいジャージに着替えた少年は並木町を走っていた。
艶やかな黒髪は後ろでまとめて束ね、余った髪はゴムでまとめて顔の両耳の前に下げている。
少年や時子が住むこの並木町は、その人口の5分の2が60歳以上の老人達で構成される町で、田舎の様な雰囲気が滲み出ているが、全国的に有名なフードチェーン店や、アミューズメント施設なども多々存在する為、かなり活気に溢れた町である。
加えて、海沿いに位置し、工業があまり盛んではなく、比較的他の海辺より海が綺麗な為、夏場は海水浴客でごった返し、その相乗効果で、商店街も潤っている。
だが人口の5分の2が老人と言うのもまた事実。
そのため田舎町と雑誌に書かれることも多々あった。
その証拠に、まだ朝の早い時間にも関わらず少年はかなり数挨拶をかけられている。
しかし、挨拶は少年の頭に留まることはなく、右耳から入った挨拶は左耳から、左耳から入った挨拶は右耳から、全て少年の頭を素通りしていた。
しかしそれは、決して少年が非常識という訳では無い。
少年は挨拶をされたら挨拶を返してはいるし、たわいもない短い会話も交わしている。
しかし、少年の頭を埋めつくしているのは、例の夢だった。
お世話になっている時子に心配をかけたくないと、あの時はとっさに気にしていないと嘘をついたのだが、内心はかなりまいっていた。
なにせ自分には全く見覚えが無い金髪の少女が毎日夢に現れ、そして毎日影に追われているのだ。
そして何より極めつけは、決まって少女が影に追いつかれそうになったところで目が覚める点だった。
寝覚めが最悪な上に、同い年位の女の子が酷い目に会うまでの映像を毎日夢で見ているのだ。
夢の内容について考えてしまうのも無理はなかった。
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