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すっかり春が訪れた街の様子を見ながら、ナミは心地良い風を感じていた。
カノコタウンで一番大きな建物であるアララギ研究所が近付いてくると、入り口の前に人が立っているのが見えた。
「お待たせっ....て、まだチェレン一人?」
「うん。まあ、ベルのことだから今回もきっと時間に遅れて来ると思う。」
ナミは苦笑いしてライブキャスターを見る。約束の時間まであと五分だが、一向にベルがやって来る気配は無かった。
「ナミ、悪いけどベルを呼びに行ってくれないかな?多分まだ家にいると思うから。」
「分かった!チェレンは先に研究所の中に入ってて!」
ナミはそう言い残し、早速ベルの家へ走って行く。カノコタウンは元から小さな街で、民家も数えるほどしか無いために、あっという間にベルの家の前に到着した。
「.....もうっ!!パパの分からず屋!!!」
家の中からベルの泣きそうな声が聞こえ、ナミは急いで玄関の扉を開ける。
すると、そこには今にも泣き出しそうなベルと、ベルの父親が激しく口論をしていた。
「ベル!まだお前には一人で旅をするのは早過ぎる!!」
「どうしてっ!?わたしだって自分のポケモンを貰った立派なトレーナーなんだよっ!!パパがなんて言ったって、わたしは旅に出るんだからっ!!」
「こら!待ちなさいベル!!」
とうとう泣き出したベルは、父親の静止を振り切って、ナミの立っている玄関へ向かって来た。
「.....ベル。」
「.......ナミ........大丈夫、大丈夫だから........遅れてごめんね?またチェレンに叱られちゃうなあ。わたし、先に行ってるね!」
ナミに気付いたベルは、涙で濡れた瞳を拭いながら、研究所へ向かって行った。
「おじさん、どうして反対したんですか?旅のこと。」
「....ナミちゃんか.....私はね、あんな何も知らない子が一人で旅をするのは余りにも危険だと思うんだ。」
(う.....そこは否定できないかも..........)
「あの子は昔からそそっかしくてね。ましてや旅の途中で危ないことに巻き込まれやしないか心配で心配で......」
「大丈夫ですよ、おじさん!!」
ナミの声で先程まで頭を抱えていたベルの父親は顔を上げる。
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