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つい先程まで演説が行われていた場所では、ナミとチェレンだけが未だにその場を離れないでいた。
見上げれば、真っ赤な夕焼けが空いっぱいに広がり、静かな街に大小様々な影が生まれていた。
「.....チェレン。さっきの話、どう思った?」
顔を伏せたまま尋ねる彼女の心は、僅かながらに揺れていた。
人間とポケモンの本来在るべき姿。
トレーナーである彼女もまた、ポケモンを捕まえては自分勝手な命令をする人間の一員であることを、男の言葉を聞いてからはなかなか否定できないでいた。
「......僕はあの男の言葉が正しいとは思わない。人間とポケモンの共存に間違いはないと信じてるからね。ナミ、君がそんなに悲しそうな顔をしてたら、ポカブが可哀想だよ。」
「ポカァ......」
ナミの腕の中で心配そうな表情を見せるポカブ。
「.....うん.......そうだよね。心配させてごめんね?」
そう言ってナミは笑顔を見せ、ポカブの頭を優しく撫でると、ポカブも嬉しそうに鳴き声を上げた。
その光景を見て微笑むチェレンが、ふと振り返ったその時、一人の少年がこちらへ向かってくるのが目に入った。
その少年は迷わずにナミ達のいる方へ近付いてくる。目深に被ったキャップからはみだした綺麗な翡翠色の髪が、ゆらゆらと風になびいていた。
「君のポケモン、今話していたよね。」
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