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「いや、だからね。ここが夢だろうと現実だろうと、どっちでもいいかなって」
「なに言ってんだ。どっちでもいいわけないじゃないか。俺は現実でこんなことしないよ」
「でも夢の世界ならするんだろ。〝現実〟と〝夢〟。どっちも言葉の上での区別でしかないのに、君は容易く二つの面を晒け出せた。それってじつはけっこう凄いことなんだよ? だって――『定義の虚ろな二つの世界で、定義の明確な善悪を使い分けている』んだから」
「なにを……言ってるんだ……?」
「君を誉めてるんだよ。私にはできない。『もしかすると今現実だと思っている世界も本当は夢なんじゃないか』ってこと、あるいは『その逆』を考えてしまうから」
意味がわからないぞ。ここは夢だ。現実じゃない。現実なら、俺はこんなことをしない。
「ここは夢だ!」
「なんの根拠があって?」
ウサギが『ここは夢だ』と言った。当然、それだけじゃない。
「現実にゾンビは出てこないし、現実に喋る二足歩行のウサギはいない」
「ならパラドックス(逆説)だ。仮に現実でゾンビや喋る二足歩行のウサギの存在が認められたら、今私達がいる世界もまた現実ということになる」
「それが無理だからここは夢な
んだよ!」
「だったら考え方を変えてみよう。『もしゾンビだと思っていた存在が、ウサギだと思っていた私がただの人間なら、ここは君の言う現実となんら変わらない』。そうだね?」
「ッ!?」
「わかっただろう? 夢と現実の『差』なんてその程度なんだよ」
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