きっとあの匂い

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教室の窓から風が吹き抜ける。沙耶は机に肘を付きながら、つまらない世界史の授業を聞き流していた。 もちろん、ノートなど取ってはいない。ペンを持つべき右手は、だらんと机の外にうなだれている。 勉強などしなくても、もう自分の将来は決まっているのだから。 そう思った途端、沙耶はやる気を無くした。何もしたくない、夢である美容師の勉強すら、やる気が湧かなかった。 「沙耶、あの話…どうする?」 「え…あれ恵本気だったの!?」 昼休みになっても変わらず窓の外を見つめていた沙耶に、恵は近づいた。 あの話とは、先日恵が笑いながら言っていた事だが、「ふたり暮らししよう」なんて言葉、冗談にしか聞こえない。ましてや笑いながら言われたものだから、沙耶はほとんど覚えてすらいなかった。 「お金は?」 「それは…」 沙耶の切り裂くような言葉に、恵は言葉を失った。
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