海底からの。

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シャンパンも空になりかけた頃、里佳子さんがふいに口を開く。 「そういえばアタシの隣、予約席になってるけど誰が来るの?常連さん?」 「いえいえ、俺がラストだから俺が呼びたかった人なんですよ」 「ふーん、若いっていいね」 と鼻で笑われた。 里佳子さんは俺目当てではなく、マスター目当てで来てくれているお客様なので、俺のことは弟のように思ってくれている。 よって、別に俺が誰に恋をしようとも、嫉妬深く語りかけるような人ではなかった。 (…これだけ飲んだあとのシャンパンはさすがにきついな。) 今日1日ですでにシャンパン2本、ウイスキー、焼酎をグラスで20杯開けていた奏汰は、もともと酒に強いタチではなく、また他にも事情があったため、かなり泥酔に近い状態にあったが、必死にこらえていた。 その時だった。 ダークブラウンに染められたパインウッドの扉が、ぶら下げられたベルの乾いた音とともに、ギィ…と鳴った。 その音でまたスイッチが入った。
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