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「ぎゃははっ!それでそんとき奏汰のヤツなんて言ったと思う?」
「えー、なになに?ちょっとおっきい声でおしえてー!」
慎は俺の武勇伝(という名のネタ)を、さも自分の手柄かのように、隣に座っているチアキちゃん(恐らく源氏名)に必死に語っていた。
慎は俺の中学からの親友で、彼女と別れたばかりだった。
それはもう切なくなるくらいに必死にチアキちゃんを口説いている姿を見て、ボソッとヤツの耳元で囁いてやった。
「ドゥーユーノウ、色恋?」 「うるせーバカ!信じる者こそ救われるんだ。」
はあ…。飽きれて俺は程よくダメージの入ったジーンズのポケットから、おもむろに財布を取り出してボーイを呼んだ。
「俺酔ったし、ラーメン食って帰りたいから先に行くわ。」
俺は自分と慎の今居た時間分までの会計をボーイに渡し、席を離れた。
慎の気持ちもわからなくもないが、スナックやキャバで飲むならあくまでそこにやっぱり俺は『現実逃避』を求めるタイプだった。
ふぅ。
この店も別に今後来ることはないかな。
考えながらドアに向かうと、ボックス席にいた俺からは見えなかったカウンターのコが、俺に声をかけた。
「ありがとうございました。また来てくださいね。」
もともと愛想と外面のイイ俺は、カウンターの彼女に目をやって、
「ああ、また来るね」
などと、流したように去るつもりだった…。
そこには、可憐で、まるでどこかの国の王妃…をモデルにした人形のような女の子が、微笑みながらグラスを拭いていた。
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