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『――あの人は騎士。駿馬も何も従えず、その身体一つを剣にして、ただ一人の主を守る事に必死になり続けた使い魔。だからこの時点では、主の置かれた境遇に悲痛を感じて取り乱した。そんな解釈が成り立つから、問題は無いかな』
俺は周りに頼れる人が居ながら、自分の手では何も決められないような人間だった。ただ喜怒哀楽のままにその場を流れて、自分の意志を結果では示せない中途半端な奴だった。
『選んだのが誰であれ、その主を守る事だけを考える。聞けばなんだかとても素晴らしい事のようだけど、そうじゃない。その使い魔は何も考えることなく、何も積み上げることなく、主を守るべきものだと認識していた』
俺が守りたいと思ったのは、育った場所と家族だった。だけどいつの間にかそれは変わって、守りたいものが増えていって、そして多分、優先順位も変わってしまったような愚か者。時間を積み重ねる内に、何かを見落としてしまったのかもしれない。
『どっちが良いのか、その答えは簡単じゃない。簡単じゃないけど、話は簡単。答えは出ないし、多分答えなんてない。でも君は、何かを答えなきゃならない。選ばなきゃいけない。選んできたと思っているかもしれないけれど、まだ、その必要があるんだ』
ずっと、選んできた。ずっと考えて、それで俺は、決めた筈だ。何回も悩んで、それでやっと決めた道が、途切れて。今こうして、無様にも誰にも見られていない場所で目を閉じている。何かから逃げている。
『やめちゃ、ダメだよ。もう君は、途中退場なんかできない、させない。選び続けなきゃいけない、歩き続けなきゃいけない。滅茶苦茶に分かれる道を前にして、何を大切にして、何を捨てて、贔屓して、背を向けて、優先して、切り捨てて、差し伸べて、見捨てて、助けて、示して――そんな事を、繰り返していくんだ』
俺が一人だったら。もしも世界中に俺が一人だけで、記憶の中に何の思い出も無かったら、良かったのに。誰を想うこともなく、あらゆる全てを自分の所為だけに出来たのなら、ここまで苦しくはないのに。
もう誰の事も、思い出したくない。
『レイン君』
『……え?』
俺は。
何かに、気付いた。
『それだけは、ダメだよ』
声、じゃない。思考の中で何かが――俺を、否定した。
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