―奇跡―

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「聞かせてもらおうか。君の、君達の基準とやら」 「……過去から託された想いを繋げる眼鏡っ子。批判を買う正論なんて諸刃の剣を持つと決めた小さな女の子に、求めるもの以外を切り捨てる馬鹿な怪盗。相反するように、失うことの意味を知っているからこそ失わないよう生きる素直じゃねえ金髪。俺の一番の友達は、選ばなくていい未来を、何かを諦める必要の無い未来を選ぶ為なんていう、茨の道に踏み入った」 「……ほう」 「それに比べりゃ俺なんか酷いモンだ。そんな奴らに笑っていて欲しいなんていう、自己満足だ。信じた人の基準を守りたいと、そんなことを思ってしまった馬鹿野郎だ」 「随分と、バラバラだな。君は嫌うのだろうが、それは正義だ。それが正義だ。しかしそうも異なった正義が入り混じった者達が、どうして同じ道を歩もうとする」 「〝正義じゃねえからだ〟と、俺は返そう。正義なんてものは不変であるべきだったんだ。俺達はそれを分かっちゃいなかった。誰かと出会って何かをして、そうする中で変わっていくような基準しか持っていない俺達は、誰かと一緒じゃなきゃ道を見失う程に脆いんだから」 「不変の正義、か。ならば君達は、どうすればそれに辿り着けると考えている」 「そんなのは分からねえよ。ただ、そこに辿り着いた人達が居る。一人娘を絶対の基準に置いているセンリさんや、一人の女に絶対の基準を置いているトビさん、そして、自分の国を絶対の基準に置いているアンタのようにだ」 「大人がそうだと……?」 「全員とは言わねえけどな。だけど俺は、そういう芯を持っているのが立派な大人だと思う」 「だが、そうだとするなら君の道こそ茨の道だ。自己の中にその基準を持たない君は、簡単に白くも黒くも染まるだろう。そんな基準を、君は貫けるのか」 「一人じゃ無理なのかもしれない。だから俺には……お前が必要なんだよ」  そうやってカイルは。  ようやくアタシに、声を掛けたんだ。
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