―奇跡―

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「〝強く生きろ〟という他人の言葉を信じ続けて、今まで曲がらなかったお前が、必要なんだ」  その言葉は引き金だった。  地に伏せていた兵士達が一斉に立ち上がる。当たり前だ、ただの体術で倒されていた彼らに傷なんて無いんだから。魔力を一切使っていないカイルは、攻撃なんてしていない。  唸る声は獣のように、迸る敵意は猛獣のように。狼の兵士が、牛の兵士が、豹の兵士が。重装備をものともしない彼らが途端に、カイルへと敵意を向けた。 「……しゃあねえ、帰って来いアテナ」 『既に、でしてよ』  風を渦巻かせながら現れる、ローブに顔を隠した人影が現れる。カイルの隣で跪くその存在を、アタシは知らない。けれどどうやら人じゃない……あれは、使い魔なのか。  その姿が見えたのも一瞬。渦巻く風に取り込まれるように、光となってカイルの腕に絡みつく。そうして風が止まった瞬間、カイルから感じられる魔力が膨れ上がる。  景色にヒビを入れそうな敵意が交錯するその中心で、カイルは言う。 「そうだよなあ、こうなるよなあ。分かってなかったわけじゃない、こんな展開は一生来ないハズだと、無様に一度諦めかけた!」  アタシの身体が動く。父さんがアタシを片手で制する。ついにその一歩を弾けさせた兵士達に囲まれながら、カイルは叫ぶ。強くも荒く、笑いながら。 「そんな諦めを否定したのがあのバカ野郎だ! そうして無理矢理こんな舞台に引き上げられて、なんにもせずにいられるかよ!」  笑った。  カイルは、笑っている。  誰しもがカイルが変わってしまったと言っていた。人が変わったようにと言っていた。けれどアタシはそんな言葉を聞いても、心のどこかで捨て切れなかった。
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