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アタシは、床から足を剥がされた。膝裏を勢い良く抱え上げられ、だけど肩をしっかり抱かれて。アタシを軽々と持ち上げるその両手は、なんだかとても温かくて。
い、いや。じゃなくて、ああ、ダメだ。頬が、ほころんでしまう。いくら髪が伸びたって、顔を隠せないってのに。なんだアタシは、こんなの、うあ。
カイルはなんて言ったっけ。アタシを、貰ってくって、言ったっけ。
「あ、う」
声が出ない。せめて顔を背けないと。ダメだ、手が動かせない。そんなに強く抱き締めなくてもいんじゃないかな、カイル。こんなの、顔を隠すには、カイルの身体にうずめなきゃ無理なのに。
「……お前がスイに頼んだのは、こういうことで良かったか?」
カイルは言う。アタシが居るから手を出せない兵士達を見ながら、彼らには聞こえないような声で言う。その目はアタシを見てないけれど、それはそれで好都合、なのかねえ。
「〝アタシをさらってくれ〟ってその役目は、俺でいいのか」
アタシは頷く。言い訳をひとつ、アタシは話せないんだから。だって国交問題になっちゃうから。だからこれは仕方無いんだから。頷くしかないんだもん。
着させられた草色のドレス姿のアタシを抱えるカイルは、みんなにどう映っているんだろう。どうもこうも誘拐犯か。それでアタシは囚われの姫になるってのか。うわ、似合わない。
自分に呆れるアタシは、少し驚く。カイルが急に跳躍したから。なんとか目を向けてみれば、氷の剣が目下に刺さっていた。それに加えて、黙示録の一人だという空色の髪の女の子が目に入る。
「姫様に何をする」と文句を言って暴れ始めるウチの兵士達。アンタらもうちょっと我慢してよ。全部話してたってのに。多分アタシは誘拐されるから見逃してって、言ったのに。
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