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そう、アタシもだから、分かっていた。アタシと同じような矛盾に、エミルが迷い込んでいたことに。お互いそれに気付いているのに、自分が迷っていることには気付いていなかった。
今あのコと話したら、きっととんでもなく、笑える話になるだろう。
アタシは今なら、そう思える。今まで聞けなかったミズキの話も聞いてみたりしたら、それもまた、楽しいだろうね。ひょっとしたらスイだって、少しだけでも話してくれるかもしれない。
そんでもって、そんな話し合いから、カイル達を仲間外れにしてやるんだ。そうしたらきっとカイル達は騒ぎながら、フェイに泣きついて暴れだす。それでエミルが怒って、ミズキが慌てて、スイがふざけて。
そしてアタシは、笑うんだ。
「んじゃ、逃げるぞセレナ。レイン達はあの女をなんとかしなきゃなんねえし、リリーラさん達は外をなんとかしてんだろうけど。そんなあいつらを信じた上で、俺はお前を奪いきる」
転移の魔法陣が光り輝く。窓枠と宙を跨ぐ魔法陣はとても眩しい。誰に見られてもアタシは誘拐されている。これならフォリアが責められることもなさそうだ。
少し落ち着いて、少し緊張する。アタシを抱えるカイルを見上げて、アタシの頭は沸騰する。茶色い短髪に、優しい目、浮かんだ汗。待ったアタシ、最後のは隠すべきだって。
「ねえ、カイル」
「おう?」
このまま移動したんじゃアタシが劣勢過ぎる。そんなキャラじゃないんだし、ちょっとはカイルに反撃しなくちゃ。なんかアタシ、エミルのが感染ってる気がするねえ。
それもまた、一緒に居たからなんだろうね。アタシは観念して全体重をカイルに委ねる。お姫様抱っこ、比喩ですらないのかい。
「どうしてアタシを求めるのかって父さんの質問、勢いで誤魔化したけど答えてないよね?」
カイルって、世界一ギクリとする表情が似合う男子かもしれない。
「ね、なんでさ」
カイルは一度アタシを見る。いや待ちなよこの状況。アタシにお姫様なんて似合わないし、カイルに王子様も似合わないだろう。笑いたくなるアタシはしかし、抱き寄せられて何も言えなくなる。
「……一目惚れ、でした」
「……敬語って」
ああ、ダメだ。もう、アタシはダメだ。気絶したい。
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