―奇跡―

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     * * *  燭台から移った火が聖堂内を赤く照らす。パチパチと焼ける音、散らばる硝子を踏み砕く音。その連続はやはり止まらず、激しさを増す攻防と共に大きくなる。  勘違いが、一つあったみたい。私だけは知っていた、〝王立魔導軍〟という集団が何故魔法使いの組織の中で最高峰に位置しているのか。それは勿論構成員一人ひとりの実力が最高級であり、魔法だけに留まらないあらゆる知識を備えているという理由もあるからだけれど。  ギルド本部にも、魔法学園にも無い、絶対的な差。  父さんの下に集った魔法使い達だけが持つそれは――圧倒的な、組織力。  それを、レイン達は勘違いしていた。魔導軍というものの力の意味をまるで理解しちゃいない。それも仕方が無いのか、あいつらが知っている魔導軍の戦績はあまり芳しいものではなかったんだから。  あの、黙示録なんていう魔法を越えた異能者達を相手にしていた彼らしか知らないのであれば。魔導軍というその意味を、勘違いしても仕方無い。  悪く言えば、舐められていても、何も言わないだろう、父さん達は。だけど私は言う。父さん達魔導軍が相手をしていなければ……とっくに最後の装飾品は、奴らの手に渡っていた―― 「……あれあれフェイ兄ぃ、これってマズくないですか? どう考えても私達、いいように誘導されて包囲されているだけだと思うんですけど」 「あっはっはっは、ええまったくどうしましょうねえ。いや本当に申し訳ない限りなんですけれど、軽く見ていましたと懺悔したい」 「ええっ!? ちょっ、フェイ君!? 軽すぎるよ!」 「つーかそりゃそうだよな、何を勘違いしてたんだ俺は。王立魔導軍って魔法使いの憧れだってのを忘れてたぜ……」  現状に対しての異口同音。炎の上がる聖堂内は、制圧されたと言っても過言じゃない。私達は彼らの攻撃を防ぎながら、いつの間にか周囲を取り囲まれていた。  戦いの中に身を置く軍の人達は、疲労を見せない。男であっても女であってもそれは変わらず、全員が右手を突き出し私達との距離を変えないその光景は。  絶対的としか、言えない。  これが、父さんの築いた、力。
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