この作品は本棚「あとで読む」に入っています
本棚「読んでいる」に移動
「集団の中で助け合い、大きな力を生む、か。……否定したいがしかしそれは、誰の賛同も得られないような虚しい行為なのだろうな」
不意にそんな言葉が耳をつく。そうだ、囲まれていたところで均衡なんてしていない。あいつだけは、ヒナフィだけは遊軍のように攻撃の手を休めない。
-Bible of Freeze-
「〝氷姫定義の絶対零度〟」
私達の周囲を風が渦巻き、可視のそれらが急速に凍結を始めた。氷属性における最上級魔法の一つ。ヒナフィのその魔法にフェイが動くそぶりを見せるも、それより早くレインが魔法を完成させた。
-Shining rain!-
「〝降り注げ雷閃光〟!」
上空に現れる黒い雲の群れ。息を呑む暇も与えずに雷鳴を轟かせ吐き出された雷は、氷結と鬩ぎあい蒸気を上げながらも相殺へと持ち込んだ。
「最上級……それも、君も唯属性の魔法使いか」
「そう言うってことは、えっと、ヒナフィだったか。お前は氷の唯属性ってことでいいんだよな。他の唯属性には初めて会った」
轟音も、蒸気も。いくら魔法使いだとはいえ反応を余儀なくされる筈なのに。その光景にも魔導軍の皆は微動だにしない。目標である私達から、一瞬たりとも目を離さない。
更に場は変化する。瞬時に左右それぞれへと視線を向けたフェイとスイは、何かを悟ったかのように表情を堅くする。
壁を壊して入ってきたのは、リリーラさんとアヤメさん。やっぱり二人も傷だらけの有様で、息を切らせながらも笑みを浮かべつつ。
包囲の外から、私に言う。
「おい娘っ子……お前の親父どうなってんだよ」
「そうねえん。正直あれ、反則じゃないの? ワタシ達二人がかりでも止められないって、ちょおっとばかし強過ぎるわ」
私は視線を前へと向ける。扉が全て開け放たれ、出来上がった一本道。大聖堂と大広間、そして外を貫くその道を、歩いてくるのは紛れも無く、私の、父さん。
金の髪も、金の髭も、少し血に染めながら。それでも揺らぐことの無い歩みで向ってくる父の姿を、みんなは恐ろしいと言うのかもしれないけれど。
私の父さんはいつだって……誰よりも、強かった。
最初のコメントを投稿しよう!