―奇跡―

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 父さんが肩に担ぐ大太刀に、広がる炎が吸収されるように集まっていく。螺旋する炎が父さんを纏い、それはさながら炎を従えて歩いているかのようだ。 「……なんだろうな、この気持ちは。私の中で喜びが渦巻き、怒りが込み上げ、悔しさが波立つ。久しく忘れていたような感覚だ」  誰もが動きを止めていた。誰一人声を出さない、一様に父さんに視線を集める。それだけの存在感を発揮している存在は、私の、父さんだ。 「どう思う……この状況は私にとって危機なのだろうか、好機なのだろうか。この状況を冷静に捉えることが、今の私には難しい」 「貴方が道を見失えば、我々も道を見失う事をお忘れ無く」  決して前を歩かずに、ただ父さんの後ろに控えていたのはバトラさん。染め上げた黒髪に青の軍服、そして大きな盾。王国の剣、ロイヤルナイト第十位、そんな彼女は伸びた背筋で厳しい目をして前を見据えている。 「道を見失うのは人の業だ……! そんな状態で他人を巻き込み生きることを、お前達は〝守る〟などと言うのだろう!?」  ヒナフィがレインから狙いを変えて、何故か激昂したように父さん達へと駆けて行く。私は虚を突かれて動けない。魔導軍の軍人も動かない。けれど彼らが動かない理由は私のそれとは、意味が違う。 「集まり慰め群れを作り! 力を得た気にでもなって誰かを守ると言うお前達は、群れに入らなかった人達を見下した上で守ってやっているだけだろう!?」  黒装束の腰に差した刀に手を添えるヒナフィ。居合い、だろうか。何度も見たその抜刀術を前にして、何故か父さんは動かない。大太刀を構えもせずに担いだまま、向かってくる女を見極めるように動かない。  刀が、抜かれる。 「止まれ」  刀が、止まった。 「専属騎士だと言うのなら敬ってやろう、命令があるならば聞いてやる。だが、総長に牙を向くというのであれば話は別だ」 「バトラ副総長……邪魔をする気か」  紋章の入った大きな盾を構えて割って入ったバトラさんは、小さく溜息。呆れたようなその仕草から、彼女は動く。大きな盾は形を変えて、光り輝く六角形となりバトラさんの両手に分断した。
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