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彼女の言う教育は、生易しいものではないでしょう。この国の王政の中ではあまり力を持たない国の次期王妃とはいえ、いずれは一国を納める存在になる人。王族の一人娘ならば、尚更その重要度は高い。
そんな彼女が受ける教育というのは、エル姉ぇ達貴族の受ける教育と比べても尚レベルが違う。それに加えてレナ姉ぇは、本来学校で身に付ける知識や技術も並行して受けることになるでしょうから。
勿論、莫大な時間を縛られる。たとえどれだけ寛容な国風であったとしても、次世代の統治者の育成をおろそかにするほど、甘くはない。
彼女がこうして自由に故郷の外を歩くことができるのは、何年後になるのか分からない。そしてそれを一番分かっているのは、他でもないレナ姉ぇ自身ですから。
「スイ……。最後に一つ、頼んでもいいかい?」
そういって今度はしっかりと振り返り、今までとは違う、力のある目を向けるレナ姉ぇ。
小声ながらにしっかりと、スイに伝えられた言葉を聞いて――スイはしっかり、頷くことが出来たでしょうか。そんな不安を嘲笑うように、レナ姉ぇは言います。
「待ってる」
言い残し、立ち去るレナ姉ぇ。その後ろ姿は別に、何も変わってはいない。友人の死を迎えた翌日に、立ち直っている人間がいるとすれば、それは最早ヒトではないでしょう。
けれどもスイは、彼女を見送り再び誰も居なくなった広場で、小さく息をつきます。
――ああ。まったく。自分が嫌になる。
達観を装って、罪悪感を潜めながら大人びた意見でも並べていれば、なにかが救われるとでも思っていたんですかね。
違うでしょう。そうじゃないでしょう。この世界の責任を背負うと決めたのは、自分でしょう。英雄と呼ばれるあの方たちに起こった理不尽を知っているんだろう。だからこそ残ってしまった禍根を断ち切る役目を、レイバードは託されたんでしょう。
クレアさんの言葉を、思い出せ――
「人は人。魔女は魔女、ですか」
フェイ兄ぃのように上手くできる保証はありませんが、動いてみましょう。いくら嘆いたところで、敵はまだ生きているんですから。
「……ちょっと待っててくださいね、レナ姉ぇ」
いつか必ず、誘拐させてみせますから。
勿論、あの方に。
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