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『……どうして』
何が起こった。何かの魔法の効果か、ただの疲労か、それとも使い魔として顕現し過ぎたか。震えを止めるようと手を握り締めてみるけれど、効果は見られない。
「えい」
『な』
不測の事態に戸惑う俺の目の前。薄暗い洞窟の中で小さく声を出した女の子が、一体なにをしたのか。俺は気付くのが遅れてしまった。視界が広がっていて、呼吸が楽になっていることに、気付くのが遅れた。
仮面を、取られていた。
「わ」
ひょい、と。両手で俺の付けていた仮面を頭の上に掲げながら、女の子はまじまじと俺を見つめてくる。俺は俺で、力が入らない身体を抜きにしても、何も出来ない。一体どうしてこの子が俺の仮面を剥がせたのかとか、そんなことばかりが頭の中を巡っている。
「えい」
ぺしんと、俺の顔に仮面を張り戻す女の子。磁力のように張り付いているのか、留め具も無しに俺の顔に仮面は居座る。そして俺がその仮面に触れようとしても、やはり斥力が働いているように手が届かない。
『ちょ、ちょっと待ってくれ……出来る事ならこの仮面、取りたいんだ俺』
「うーん、ダメ! とってあげない!」
今までで一番大きな声を出して、女の子は両手でバツ印を作り眉を吊り上げる。どうしてか怒る女の子に俺がどうしたと聞けば、そのまま顔をグイと寄せてきた女の子はこう答える。
「男の子は、泣いたらダメだから。泣きそうな使い魔さんの顔は、隠さないとダメ。ちゃんと笑えるようになったらとったげる」
『……泣き、そう。俺がか?』
胸の辺りまで伸し掛かってくる女の子を前に、俺は混乱する。またか、また俺は、自分の状態に気付けてないのか。落ち着いて、落ち着いて自分の状態を、考えろ。俺は目を閉じる。
身体が、震えている。原因は、使い魔だからというわけでも魔法の効果でもなさそうだ。自分の心理状態から、そうなっているらしい。身体が震えるなんて、比喩表現みたいなものじゃないのか。ここまでひどく震えるような原因は、一体なんだ。
一体なんだ。
〝一体なんだ〟?
なんだよ――その見栄。
『……あ、あ』
一瞬で、気付いてただろう。目が覚めてすぐに、何を探した。何を悟った。目が覚める直前まで、一体自分が何と戦い、何を守ろうとして、それが一体どういう結末に終わったのか――忘れていた瞬間があったとでもいうのか。
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