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『……分かってるのに、ゴメンね。君が今どんな気持ちで、そんな事を思っちゃったのか。みんな居ないその場所で、みんなの事を考え続けなきゃならないなんて――そんなの、地獄だよ』
『……なん、だ』
何も見えない、というのは間違いだ。身体さえ見えない。身体があるのかも分からない。表現するなら黒色というだけで、思考だけ鮮明な空間。俺の意識が醒める。
朧気な夢が、明晰夢となったような。景色も何も無いけれど、ただ自分の思考の支配権を取り戻したような感覚の中、それでも自分の思考を邪魔する何かに気付く。
嫌気が差すだとか、怪しむだとか、疑うだとかの、自分の中で思考より早く発動するストップの合図。それらに似た何かが揺蕩う意識の中を走り抜け、違和感を生生しく残していった。だからこそ、こうして思考が出来るようになったとも言えるのかもしれない。
『だけど君の道はまだ、続いてる。だから忘れてしまった方が良かったなんて、思わないで。死んでしまえば良かったなんて、思わないで。君が歩く先にはきっと、みんなとまた会える未来が待ってるから』
『誰だ――なんの、話を』
声が、聞き取れた。
なのに、俺は声を出せない。口が無いから、身体が無いから。
壁を挟んだ向う側のようなその声は、俺に気付いていないのか。語りかけるようでありながら、こっちの声には反応をしない。一人で話し続ける。掠れた声で、誰かに届いていると疑わないように、必死で。
『もうすぐ、テスタメントが歌われる。そこで女神が召喚されたら、ルール違反がバレちゃうから、私のこんな小細工も出来なくなる。でも――私が干渉しようとしているのだって、レイン君が諦めてしまうのなら、意味は無いかな』
『……シャオ、か?』
浮かんだ名前は、それだった。
『やっぱり今の私じゃ、レイン君に声を届けるなんて……無理だったのかな。私だって、何も決められてないのは――割り切れていないのは、同じなのに。無茶だったかも』
『おい……シャオ! 俺だ、聞こえてる!』
しかし、俺の声は届いていないようで。
声はただ、悲しそうに続く。
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