トロッコ

2/9
前へ
/9ページ
次へ
暗い日本海に面した廃れた炭鉱を抱えるとある田舎町、かつての栄光はなく、うらびれる一方の僻地があった。 暗く重い空が町を覆ったある日、くたびれた町役場に異質な人影が現れた。 美しい亜麻色の肩まで伸びた髪をなびかせ、タイトなスーツにヒールを履いた30過ぎの垢抜けた女性。 町にそぐわぬ風貌の女性が目的のカウンターへと迷わず進んだ。 始めこそ誰も気付かなかったが、その華やかな雰囲気は小さな役所の空間に伝わり、次第に視線が集まり出した。 やがて、地域振興課の奥に座る男の目にも留まった。 一目見てのそり立ち上がり、カウンター越しの女性の姿に息を飲んだ。 「…――ユリ、ユリなのか?」 信じられないとばかりに眼鏡の奥の瞳は見開き、立ち尽くしている。 「久しぶりね、淳一!元気してた?」 ユリと呼ばれた女性はニコッと笑い、嬉しそうに答えた。その会話に皆が反応した。 なぜなら彼女、六条ユリは高校を出るなり東京へと町を捨て出て行き、10年以上音沙汰がなかったのだから。 ユリは、遮二無二働いてキャリアを積んでいた。 そして、帰ってきたのだ。 .
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加