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暗い日本海に面した廃れた炭鉱を抱えるとある田舎町、かつての栄光はなく、うらびれる一方の僻地があった。
暗く重い空が町を覆ったある日、くたびれた町役場に異質な人影が現れた。
美しい亜麻色の肩まで伸びた髪をなびかせ、タイトなスーツにヒールを履いた30過ぎの垢抜けた女性。
町にそぐわぬ風貌の女性が目的のカウンターへと迷わず進んだ。
始めこそ誰も気付かなかったが、その華やかな雰囲気は小さな役所の空間に伝わり、次第に視線が集まり出した。
やがて、地域振興課の奥に座る男の目にも留まった。
一目見てのそり立ち上がり、カウンター越しの女性の姿に息を飲んだ。
「…――ユリ、ユリなのか?」
信じられないとばかりに眼鏡の奥の瞳は見開き、立ち尽くしている。
「久しぶりね、淳一!元気してた?」
ユリと呼ばれた女性はニコッと笑い、嬉しそうに答えた。その会話に皆が反応した。
なぜなら彼女、六条ユリは高校を出るなり東京へと町を捨て出て行き、10年以上音沙汰がなかったのだから。
ユリは、遮二無二働いてキャリアを積んでいた。
そして、帰ってきたのだ。
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