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暗いはずの炭坑だが、工事に向けて仮設の照明が等間隔に取り付けられていた為、難なく歩くことが出来た。
それでも、炭坑内は薄気味悪く、結露が水滴となり地面に落ちる音は居心地を悪くさせた。
ユリが町に帰って来てから淳一は極力二人っきりにならないようにしていた。
ユリの前を歩く淳一は、後ろでペラペラと喋るユリに曖昧に返事をしつつ、後悔し始めていた。
「…――って、ねぇ?私の話聞いてるの?なんだか心ここにあらずって感じ……
……あれだけ愛し合ったのに――ね?」
ユリの言葉に淳一は足を止めた。
脳裏に浮かぶ忌々しい過去、若気の至り。
いや、若気の至りと呼ぶにはあまりにも酷かった、人の人生を歪まさせるには充分な程に。
淳一は過去の約束を反古しようとしたユリに怒り、焦り、恐怖を感じて振り向いた。
バチバチバチッ
淳一は激しい電流に意識を手放し崩れ落ちた、ユリの不敵な笑みを見ながら。
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