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「ジュンちゃん、私はね、やっとジュンちゃんと過去のことを忘れて過ごせる!って思って帰って来たの……ジュンちゃんと幸せな家庭を築く為にね?」
そう喋りながらユリはトロッコの軌道へとゆっくり歩く。
ユリの真意を知った今、淳一の頭は混乱していた。
「……ジュンちゃん?今からダイナマイトを積んだトロッコを動かすわ。ポイントの切り替えで選んで欲しいの……
左へ倒せば、海へ続く道。
右へ倒せば、私にぶつかるわ。
そのままなら、私もジュンも一緒に逝っちゃうの……
ねぇ、ジュンちゃんはどうしたい?」
ガチャン
ユリの問いかけと同時にトロッコが動き出す。
車輪が軌道と擦れ、耳障りな金属音が響いて来る。
淳一の頭は益々混乱した。
トロッコを海に放り出したなら……トロッコをユリにぶつけたなら……それとも……
近付く金属音のそれは心の悲鳴のようであった。
ピークに達しようとした時、淳一は選んだ。
ガチャン!
ポイントの音が反響し軌道がずれる、淳一は安堵した。
それを確かめたユリは――…
「……ジュンちゃん、それは不正解よ?」
「……は?」
ガチャ
トロッコは淳一の選んだ選択を無視して海へと走り出した。
ゆっくりと艶然と微笑みながら近付いて来るユリに淳一はゾッとした。
試されたのだ。
それに気付いた淳一はユリがどんな行動に出るのか想像もつかなかった。
ユリを今さら愛することなど出来なかった。
だから、ユリを殺すことを選んだのに、ユリは電子制御盤をすでに取り付けていて、それを回避されてしまった。
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