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そんな日和をそのままに伶はなおも続けた。
「そしたら、いつもどおり優しく抱き締めてくれるんじゃないか……って、思ったんじゃないかな」
「そう……か」
「日に日に望み薄になっていくのはわかっていながらもここにいる内に、違う心配事も増えてしまった」
「心配事?」
「私の出産。そして育児」
「あ……」
「きっともっと早く離れるつもりだったのよ……そう思えば帳尻が合うと思わない?」
言いながら、伶は朔から手渡されたいくつもの箱を振り返り見る。
その中身は暁の一年先までの服で、その全てが芙蓉の手作りだった。
離れることを随分前から覚悟していなければ作れないことがわかるから、涙が溢れて仕方がなかった。
芙蓉が苦悩しているその時に幸せに酔うばかりではなく、その芙蓉にすがるばかりで何一つしてあげられなかった自分が腹立たしいったらない。
「どんな思いで……」
どんな思いでいたのだろう?
「伶……」
苦渋に満ちた決断で、それが芙蓉の本心ではなかったとしても……今は芙蓉の思うがままにさせてあげたかった。
「日和……お願い……探さないでいてあげて?」
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