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***
―――朔。
呼ばれた気がして身を起こす。
そうしてまた、失望するのだ。
芙蓉がいない室は無駄に広く感じて、妙に寂しかった。
「……芙蓉」
応えることがない名を呼ぶのは自分を辛くさせると知りながらも口にするのを止められなかった。
呼べば呼ぶほど想いも募る。
「……って」
この胸の苦しさは一体どちらのものだろう?
胸を押さえてベッドの上で踞る。
芙蓉がいたなら駆け寄って甲斐甲斐しく介抱してくれるだろうに。
「薬飲み」
不機嫌な声が頭上から降ってきたため、朔はゆっくりと顔を上げた。
「……直治まる」
「お前な……」
呆れ顔の幸継に口の中に錠剤を押し込まれ、朔は露骨に嫌な顔をするも水の入ったグラスまで手渡されては嫌とは言えなかった。
「……恋患いがもたらす痛みかも知れないのに」
こくりと飲み干し、恨めしげに見上げてきた朔の額を朔らしからぬ発言も手伝ってか幸継は容赦なくぺしんと叩く。
「阿呆。それやったらなおのことすぐには治まらんやろうが」
お前の場合は薬飲んどいて正解なんや、と言い切られた朔は一本取られたとぼやきながら、地味に痛む額を撫でた。
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