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早くも挫折しそうやと窓枠にどっかりと腰掛けながら幸継はぼやく。 それにしても、と室を見渡す。 芙蓉が来る前はこんなものだったんだろうけど、室が妙にがらんとして見えて、朔が不憫に感じないわけではなかった。 以前の朔ならば、初恋かも知れないなんて真顔で宣ったりしなかった。 さっきの恋患い発言にしてもそうだ。 芙蓉は朔にとって影響力が大きすぎるようで早くも壊れ始めている始末。 それなのにひとりで何もかも抱き抱えて胸の内に秘めて、静かに静かにフェードアウトすることを選んだ芙蓉をさっさと見つけ出して、何悩んでそんなことをしたのかは知らんが全部杞憂だと言ってあげたかった。 どうして人は。 肝心なときに、相手が求める言葉を伝えることが出来ないんだろう? 「はぁあぁ……」 額に手をやる。 最初は僅かな亀裂立ったかも知れない。 だけどその僅かな亀裂も、重なりに重なれば取り返しのつかない程の深い傷となり、断裂に至るのだとしたら……悔やんでも悔やみきれない朔の記憶喪失事件が引き金になったのは言うまでもなかった。 そこから。 明らかに悪い方へと転がって行ったのだから。
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