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しばらくは堪えていた芙蓉も態度こそ軟化してきてはいたものの一向に思い出さない朔が発作を起こさなくなってきたことから傍にいる理由はなくなったとして婚約破棄を申し出たその日、金城琉に拐われた。 「まぁ……あのときも壊れそうやったけど」 小さく呟く。 壊れるというか、切れていた。 かつて政府黙認の高苗深雪私設の暗殺集団に身を置いていたときの鋭さを日に日に取り戻して行っているようなあの様は芙蓉には見せられないと思ったが、最悪の形とは言えど芙蓉を取り戻してからは一瞬にして敵に見せていたような酷薄さを封印したから、芙蓉はやっぱり特別で、嫌われたくないのだと言うことが伝わってきた気がした。 献身的に芙蓉に接している様を見て、ああこいつはほんまに芙蓉を嫁さんにするんやなぁってちょっと微笑ましく見ている一方で、何でも自分でこなそうと静かに足掻く芙蓉の様に、ひとりで生きようとしてるんやないか?と尋ねたことがあった。 寂しげに笑って否定する芙蓉にそれ以上は追求してくれるなと暗に言われた気がして言葉を飲んで、考えないようにしていた結果がこれだ。
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