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嫌がられてでももっと深く聞いていたなら違う今があっただろうか?
「ユキ」
「……どうした?」
音もなく現れた千鶴に気配で察していた幸継は思考を中断させ、振り返る。
「螢院に立ち寄っていたみたいだ」
ベッドに伏す朔を気遣ってか小声で言う千鶴。
「……いつ?」
「おそらくはここを抜けた直後」
「即、誠センセに帰ってないか、立ち寄った形跡はないか調べて欲しいって伝えて、こないだの返事は否やったで?」
それが今になってなんやねんと幸継は眉間に皺を寄せる。
「……センセにわかるはずがないだろ?最近改心したとは言えど、それまで芙蓉のことは息子の嫁に虐待されてても気付かぬような残念な人だぞ」
「誰が気付いた?」
「伶様が……」
「え?心当たりないって言うてはったのに?」
「それはあくまでも誠センセが立ち寄った形跡はないと言ったのを真に受けてのこと……日和様に頼まれて先程螢院に赴き、芙蓉の自室を改めてくれたらしい」
「なるほどな。ほんで、伶様から見たらばっちり芙蓉が寄ったんを見つけられたわけか」
「大事にしまっていたはずの椿様の遺品のショールが無くなっていたらしい」
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