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聞けばその少し前から、その兆しはあったのだと朔は沈痛な面持ちで語るあの様を思い出した春香はますます胸が苦しくなって飛高の背に腕を回す。
「……離れてしまっては生きられぬのに」
「ハル……あんまり思い詰めるな」
優しく背を撫でて宥める飛高も独自で芙蓉の足取りを追っていた。
芳しい報告が届かぬ今は不用意なことは言えないと春香にはその旨を伝えてはいなかった。
「それでも飛高……自分のことになると途端に口下手にならはるって知ってたのに。私はそれを知っていながらあの子の気持ちを少しも察して上げれてなかったんやと思うと情けのうて」
目を伏せるとまなうらに浮かぶのは朔の傍らに控え微笑む芙蓉。
自分に刃を向けた刺客にすら情をかけ、あまつ自らの命をも譲ろうとすることはままあった。
「朔にしか……心を許していなかったのに」
唯一心許した相手に記憶を無くされ、距離を取らざるを得なかった二ヶ月……その間に芙蓉はだんだんだんだん不安になっていったのだろう。
だけど二ヶ月を過ぎると芙蓉は再び朔を虜にしたと知ったから……片時も離さぬその様にもう大丈夫だと思ったことが今は痛烈に悔やまれた。
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