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「伶」
「芙蓉は朔君が好きなのは確かよ。でも……だから……辛かったのよね、きっと」
「何も離れなくとも」
いいじゃないか、と言う日和に伶はそんな簡単には気持ちを整理できないものよ、と言い、更に続けた。
「芙蓉はきっと堪え難かったんじゃないかしら。記憶を失った朔君を前に微笑み続けるのは」
その気持ちをもっと推し測ることが出来ていたなら、違う今があったのだろうか?
「……少しかも知れないけど、思い出しかけているじゃないか」
「それはそれで複雑なものだと思うわ。朔君のせいではないとは言っても最初は随分冷たくされていたから……後からそれが緩和されても気持ちが追い付かないわ」
そもそも芙蓉は朔を生かすことが出来るなら生きていても良いだろうかと言うような子だ。
「朔は芙蓉に傍にいて欲しいと伝え続けていたはずだけど……それでも駄目だったってわけですか?」
「本当はもっと早く離れるつもりだったのでしょう……でも淡い期待も抱いていたのよ……」
「淡い期待?」
「明日目が覚めれば、全ては元通りになっているんじゃないか……」
「……っ」
息を飲む。
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