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そんな清らかな朝の中。凜は洗面台の蛇口をひねり、勢いよく流れ出た水で顔を洗う。寝起きでゆるんだ少女の顔に冷たい刺激が心地よく沁み渡った。
ひとしきり朝の眠気を流してから、凜はゆっくりと顔を上げる。その時、自然と鏡に映る自分の姿が目に入った。
我ながらひどいものだ――と凜はそれを見て軽く微笑んだ。
容姿にさほど執心しない彼女の髪は肩ほどまで無造作にのび、中でも前髪は眼差しをおおうほどに長く垂れている。
それは彼女にとって意図的なものではあったのだが、こうしてみると年頃の少女としてはいささか以上に不格好というものだろう。
ためしにその邪魔な前髪を手ですくい上げてみる。それだけで視界が鮮明になるのを彼女は感じた。
「思い切って切っちゃえば、こんなに目の前が広がるのにね。でも……」
どこか自嘲のこもった呟き。
だが、彼女はその先を口にしなかった。言葉にせずとも"そのこと"は目の前の鏡を見れば全てを理解できるからだ。
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