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「はぁ……」
溜息が一つ朝の洗面所に木霊した。
凛とて、その考え方が卑屈であることはわかっている。
この問題は生まれ持った身体的特徴のみならず、彼女自身の性分によるところが大きいのもまた事実である。
たしかに、その発端は彼女の特異な瞳に由来する。しかし問題としての根幹は、凜自身にその風変わりな容姿を正当化するだけの強さが無かったことが原因だ。
そも、人間が抱えるコンプレックスというものは、自身がそれを許容できるか否かで大きく性質を変えるものである。
人間における受容性。本人がそれを卑下せずおおらかに振る舞うのなら、周囲の環境はそれに付随して包括的に変化するものだろう。
そこには受容と尊厳の間で揺れる、小さな衝突があった。
「自然体――か……」
普段とは違う朝の環境がそうさせるのか。今日の凜はいつになく思索的である。
たしかに、自分がもっと素直に振る舞える人間であれば――と考えたことは少なくない。だが、それ自体がifの範疇を出ない想像である。
もとから自我の強い凜のことだ、自分が器量よく柔軟に振る舞う姿など描けようはずもない。
微かな逡巡の後、かき上げていた髪から手を離して、凜は雑念を振り払うようにかぶりを振った。
元来、自分にそのような立ち回りは向いていない、と凜は思う。
もとから自分に頑なな一面があるのを彼女は理解していたし、よほど大きな転機でも無ければそれは今後も変わらないだろう。
であるならば、できない物をくどくどと考えるのは大きな浪費だろう、と彼女は思った。
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