Introduction-少女の憂鬱-

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 時計を見ると時刻は五時三十分。  余裕を持って朝の準備をするならば、そろそろいい頃合いかも知れない。 「そろそろ、父さんも起きてくる時間か……。朝ご飯の準備もしないといけないし」  冴原家の朝は早い。  朝食を作るのは主に父の担当だが、手が空いているなら手伝うのもありだろう。  とりとめない朝の思索もこれでおしまい。  考え事の答えは出ていない。だが、その答えが急ぐもので無いのも事実である。 ”そうだ――答えがわからないのなら、またちがう機会に考え直せばいい”  楽観的とも捉えられる考え方ではあるが、閃きの訪れない思考を続けるよりはよほど生産的ではないか、と彼女は思う。  解けない問題は後回し。空いたその時間で別に何か有意義なことをすればいい。  そういった彼女の人生訓は、彼女のドライで実直な生き方を表しているようにも思われた。  そうして凜は、朝食の付け合わせはなにがいいか――などと考えながら、淀みない足取りで朝の洗面所を後にした。
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